君の名は。の瀧と三葉のその後は?続きや続編はある?(ネタバレ注意)【二次小説・ss】

君の名は。がアメリカでも放映が決定したみたいですね。

めっちゃ面白い映画だから、納得です。


この記事では、君の名は。の続編や続きはあるのか?の考察と、

瀧と三葉のその後を小説で描いていきます。



◆◆2022年10月28日追記◆◆
小説の続きを追加しました。






続きや続編はある?


君の名は。に続きはあるのか?

私は、君の名は。の続きがあるかどうかは、五分五分だと思っています。


まず、新海誠監督はそもそも、君の名は。の続きを書くつもりはなかったと思うんですよ。

タイトルにも現れてますよね「君の名は

句点がついてるんですよ。

一度、新海誠の作品はこれで一区切りだよ」というメッセージに見えます。





実際、君の名は。という作品は、今までの新海誠の集大成だと、私は思っています。

今まであったSF要素、合いたいけど会えない男女の切なさ

そこを踏まえた上で、君の名は。では今までにない新要素が含まれています。


新要素というのは、「わかりやすさ」です。

言ってしまえば、今までの新海誠の作品は芸術作品

今回の君の名は。はサービス作品、大衆向けの娯楽作品なんですよ。



今までは、新海誠が自分の大好きなものをひたすら詰め込んできた印象ですが、

君の名は。はむしろ「こうやったら面白く感じてくれるかな」をいっぱいに詰め込んだ作品です。


新海誠監督にとって今までの作品をとして、

「君の名は。」を一つの完璧な作品として描ききったんです。


完璧な作品に続きはいりません。

続編は蛇足になるだけです。

……新海誠監督は、少なくとも作ったときは、そう考えていたと思います。



娯楽作品の監督として




でも、「君の名は。」は大ヒットしました。

興行収入は今年の作品で圧倒的トップ、アメリカでの放映も決まるなど、

勢いは留まることを知りません。


ここまで人気が出れば、多くの人が続きを見たいと思うのは当然です。

作者としても、続きを書いてもいいと思うんじゃないでしょうか。



今までの新海誠監督なら、多分、続きは書かなかったでしょう。

新海誠は、クリエイターとして、自分のこだわりに生きている作者だと思いますから。

でも、観客のことを第一に考えるようになった新海誠監督なら、

「君の名は。」を書いた新海誠監督なら、続編を作ってくれる可能性もあります。


そういった訳で、続きがあるかどうかは五分五分だと思います。




瀧と三葉のその後は?【二次小説・ss】




映画のラストでは、

二人はすれ違った後に、お互いを見つけることができました。

あの後、どうなったのか?


映画の続編で描かれるかもしれませんが、私なりに考えてみました。


小説風でかいていきます。


※映画を一度見ただけの上、

小説版は未読のため、おかしい所があるかもしれませんが、

ご容赦下さい。






結婚した2人





俺と三葉が、あの階段で出会ってから3年。

俺たちは、ようやく結婚した。


友人の藤井と高木には

「姉さん女房かー、奥寺さんといい、やっぱり瀧は年上好きなんだな」

とからかわれたりもしたけれど、そんなんじゃない。

いや、確かに三葉が年上なのはその通りなんだけれども、

どうにも俺たちは、お互いが年上だとか年下だとか、

そういった感じがしないのだ。


帰宅



「瀧くーん」

家に帰った俺を、三葉が迎えてくれた。

改めて、まじまじとこいつの顔を眺める。

「? どしたん? なんか顔についとる?」

いや、なんでもないよと言って、俺は上着を三葉に預けた。


どうにも三葉の顔は、他人のような気がしないのだ。

まるで、毎日鏡でみた自分の顔のように、どこか見覚えがある。

……理由は、全然わからないのだけど。



そんな事を考えながら、俺は食卓に座った。

食卓には鰻の蒲焼き、あさりの味噌汁、そして……

「? なんだこれ?」

コップに赤い液体が注がれている。

「ああ、それ。すっぽんの生き血」

「ぶっ」

少し口に入れた液体を吹き出す。

「三葉! なんてもん飲ませてんだよ!」

「何言うとん! 今日は精をつけないと!」

「え……」

頬がかっと熱くなるのを感じる。

――三葉がこういうことを言うのは珍しい。

赤くなって黙ってしまった俺を見て、三葉も自分が言った言葉の意味に気づいたようだ。

「ち、ち、ち、違うからね!なに想像しとるん!そんなんじゃないから!ほら!瀧君あした出張でしょ!?体力つけないと!」

あー……そういえば、そうだった。

俺は脇においた鞄から、明日の出張で向かう場所の写真に目を向けた。

岐阜県の、とある山奥だ。

「たしか、三葉の故郷も岐阜だっけ?」

「そう、糸守町。彗星が落ちたとこね」

――ああ、そういえば俺は一時期、糸守町に夢中だったっけ。


「岐阜のどこに行くの?」

「詳しくは明日、課長から聞かされるんだけど……なんでも、変わった川の調査みたいだ」

「川?」

「そう、川。なんでも、国からその川を調査するようにって頼まれたらしい」

「瀧君の会社って、建設会社でしょ?変わった仕事やねえ」

三葉の言葉に、俺は苦笑した。

「就活時代、あんまりうまくできなかったから、結局建築の部署には入れなかったし、しょうがないよ。

なんでも、変わった川の様子を、俺が写真とか絵で記録するんだとさ」

「瀧君、絵うまいもんね」


そんなことないさと言って、僕はすっぽんの血を飲み干した。

確かに、精をつけたほうが良さそうだ。



山奥



翌日、俺は課長に連れられて、岐阜県のある山を登っていた。

昨日は結局寝るのが遅くなってしまったので、少ししんどい。


しかも厄介なことに、変わった川は毎回同じ位置にあるのではなく、頻繁に発見場所が違うそうだ。

とんでもなく胡散臭い仕事だけれど、国からの依頼ということで、断るわけにはいかないそうだ。

「瀧ぃー!付いてきとるかー!」

「はーい!大丈夫です!」

少し上を登る課長に返事をする。

こうして山を登っていると、おばあちゃんを担いで山道を歩いたことを思い出す。

――あれ?俺、なに言ってんだ?俺のばあちゃんは、小さい頃に死んじゃったじゃないか。



「瀧、休憩するか」

「はい」

俺達は、手頃な岩を見つけて、その上に腰を下ろした。

「いいか、瀧。こういう激しい運動してるときはな、なるべく水は飲まない方がいい。

すぐに疲れがやってくるからな」

「……課長、その割にはすごいペースで飲んでますね」

課長は、はやくも水筒のコップで3杯目を飲み干した。

「ばっか、これはいいんだよ。薬みたいなもんだ。お前も飲むか?」

課長が俺にコップを突き出す。この匂いは……日本酒?

「課長!お酒じゃないですか!」

「おうよ。こいつは小左衛門。岐阜のいい酒だぞ」

「じゃなくて……仕事中ですよ!?」

「堅いこと言うなって。どうせ誰も見てないし、会社もこの仕事を、そこまで大きく見てないって。テキトーに調査して、レポート出せば終わりだよ」

――この人が、この年で課長どまりな理由が、なんとなくわかった気がする。

「さーて、そろそろ行こうかね……」

課長が岩から立ち上がった。

「……おっと」

足取りがふらつき、水筒を落としてしまう。

水筒は岩の後ろにあった藪に転がっていった。

「いかんいかん……」

課長が藪に向かって歩いて行く。

――全く。お酒なんて飲んでるからだ。


「うわあああ!」

突然、課長の叫び声が響いた。俺は慌てて、藪に向かって駆け出す。

「課長!どうしま……うわ!」

驚いたことに、藪の向こうは、急な坂道になっていた。

崖、とまではいかないが、滑り台ぐらいの急な角度だ。

課長が坂道にべったり張り付いて、震えているのが目に入った。

「瀧ぃ~助けてくれえ!」

「捕まって下さい!」

俺は慌てて、課長に向かって手をのばす。

――思えば、これがいけなかった。

せめて、紐かなにかで、命綱を作っておくべきだったんだ。

坂で落ちかけている成人男性を、山の不安定な足場で引っ張り上げるなんて、よっぽど力がないと無理だ。

俺は課長の手を掴んで、そのまま一緒に、転げ落ちていった………………。






ぴちゃん。ぴちゃん。

水が滴る音が、私の耳に響く。

なんだろう。水道の蛇口を閉め忘れたのかな。

今日は瀧君を見送って、お洗濯をして……それから疲れて、眠ってしまったらしい。

しょうがないじゃない。昨日は……その……ハードだったし。

誰にするでもない言い訳を考えながら、私はそろそろ起き上がろうかと力を入れる。


――あれ?おかしいな。体が動かない。

なんだか背中がズキズキと痛む。喉がやけに乾いている。

もしかして風邪かな?やだな。明日までには治さないと。

明日は、瀧君が出張から帰ってくる。昨日以上のごちそうを作ってあげなきゃ。

私は、ゆっくりと目を開けた。

「……え?」

そこは……空だった。真っ赤な空。夕暮れだ。

「………………う」

私は周りを見渡すために首を動かす。

鈍い痛みがしたが、なんとか首は動いた。

「どこ……?ここ……?」

屋外であることは間違いなかったが、よくわからない場所だ。

周りはゴツゴツした岩と土だらけで、洞窟のように見える。

「わ!」

右を見てびっくり。人が倒れている。

しかも、真っ赤な液体が体の下に、水たまりを作っていた。

――あれは……血?私はゾッとして立ち上がろうとしたが、やはり体が痛くてうごけない。

「……あれ?」

もしかしてあの人……課長さん?前に一度、瀧君がウチに連れてきた……。


それに気づいた私は、痛さも忘れて、おもわず右手で口元を覆った。

“ピチャ!”

右手に液体が付いていたらしい。口元に湿った感触が伝わる。

私は右手を見る。――そこには、真っ赤な右手があった。


「きゃあああああああああああ!」


事件



「ああああああああ!……ハァ、ハァ、ハァ………………」

私はベッドから跳ね起きた。

……ひどい夢だった。はっきりとは覚えていないけど、私が大怪我を追ったような夢だった。

「しかも課長さんと一緒て……縁起でもない」

まるで、瀧君に何かあったようではないか。心臓に悪すぎる夢だ。

「……いま、何時?」

時計を見ると、20時を回っていた。しまった。家事を全くやっていない。

……まぁ、いっか。今日は、瀧君も帰ってこないし。

「ピザでも取ろっかな」

私は出前が好きだ。特にピザのデリバリーサービスは、すごく都会っぽくて最高だ。

私が生まれた町では、ピザどころか、蕎麦だって届けてくれなかったものだ。

私は受話器を取って、月一で電話しているピザ屋さんに電話した。


「お世話になってます。立花です~。ピザ1枚と、コーラお願いします~」

電話を済ませた私は、洗面台に向かった。いくらなんでも、寝起きの顔でピザを受け取る訳にはいかない。

顔を洗って、軽く化粧を……

“ピンポーン!”

電話してから、5分もしないうちに、チャイムが鳴った。

「はや! ……はーい!ちょっと待ってくださーい!」

大急ぎで化粧を終わらせる。

――うう、適当すぎる……。ても、まだ28歳の乙女だ。問題ないでしょ!


「はーい、早かったですねー」

扉を開けると、そこにいたのはピザ屋さんではなく、スーツ姿の男性だった。

息を切らして、顔色も真っ青だ。

――だれだっけ、この人?……ああそうだ。瀧君の後輩の、滝くんだ。

一度ウチに遊びに来て、同じ名前なんですね、って話したっけ。


「どうしたの、滝くん? 瀧君なら今出張で、帰ってないよ?」

うーん、我ながらややこしい。

「大変なんです!瀧先輩が……行方不明なんです」

……え?

ユクエフメイ……?

「出張で山に調査に向かったとのことなんですが……この時間になっても、連絡が取れないんです!

泊まる予定の宿にも来てないし……遭難した可能性があります」

……ソウナン?

「警察には連絡して、明日から救助隊の方々が捜索を開始してくれるそうです!

僕は、会社から三葉さんに電話するように言われたんですけど、電話より、直接話した方がいいと思って……」

私は暫く経って、漸く滝くんの言葉を理解した。


視界が曇り、足が震える。

喉の奥が、締め付けられるように痛い。

呼吸が浅くなり、どんどん息苦しくなっていく。


「三葉さん!三葉さん!大丈夫ですか!?」

「……うん、大丈夫。ありがとう……」

なんとかそれだけ言って、私はくるりと滝くんに背を向けて、リビングのソファーに腰掛けた。

足が震えて、立ってられそうにないのだ。

瀧君……瀧君……無事でいて……!

「三葉さん!よかったら僕、岐阜まで送ります!

車で来てますから!」

滝くんの声が、玄関からではなく、100メートル向こうからの声に聞こえる。

本音を言えば、それを無視して、寝てしまいたい。

全てを、悪い夢だったで終わらせたい。


……ああ、でもだめだ。ここで私がしっかりしないと。

瀧君のところに、いかないと。

「……ありがとう。おねがいするね」

「いえ、とんでもないです! 準備にどれくらい掛かりそうですか!?」

「すぐ行く!必要なものは、途中で買えばいいんだから!」

私は財布が入った外出用の鞄を手に、玄関に向かった。

瀧君、今行くからね!


「ちわ~!ピザのハットリです! ピザ1枚とコーラ、お届けにあがりやした~!」

「………………」

……どうすればいいかな、この空気。



以下、2022/10/28追記




高速道路




”ブーン…”

車の出す走行音が、やけに大きく響いて感じる。

岐阜に向かう高速道路の風景が、ビュンビュンと後ろに流れていく。



こんな時でなければ、ちょっとした里帰り

――といっても、私の故郷はもう、この世界のどこにもないのだけれど――

として、

この風景を楽しめたのかもしれない。

しかし、今の私には、とてもじゃないけど、この高速道路の夜景を味わう余裕はなかった。


――あのあと、私はピザ屋さんのピザをなかばひったくるように受け取り、

急いで財布からお金を出してピザ屋さんに押し付け

(ちゃんと覚えてないけど、多分、一万円札を握らせて、すぐに駆け出したような気がする)、

急いでマンションのエレベータを下りて、

滝くんの車に飛び乗った。



私は何をどうすればいいのか、

何もわかっていなかったのだけれど、

そこは、滝くんがかなり冷静で助かった。


岐阜行きの高速道路に向かう道中、

ホームセンターに寄ってくれて、

瀧君の捜索に必要そうなロープや、山歩きしやすい服や靴など、

そういった諸々を見繕ってくれたのだ。


本当に、滝くんがいてくれて、助かった。

私一人では動揺しすぎて、何もできなかったに違いない。

その証拠に、私は非常食とか、必要そうなものばかりではなく、

工具用のドリルや浮き輪など、訳のわからないものを買ってしまっていた。


なんだよ、浮き輪って。

私が行くのは海じゃなくて、山である。


しかもご丁寧に、店員さんの

『浮き輪を膨らませることもできますか、どうされますか?』

という問に、慌てすぎて、

『ひゃ、ひゃい!じゃ、じゃあ、お願いします!』と返してしまった。


助手席に座る私は、ちらりとバックミラーを見る。

車の後部座席には、

山登りに必要そうなリュックとともに、ゴキゲンなガラの浮き輪が佇んでいた。


……いけない、冷静にならなくては。

明日は、瀧君が登ったという山に探索に入るのだ。

冷静にならなきゃ、見つかるものだって見つからない。



「――三葉さん、本当に、山に入るんですか?」

滝くんが運転をしながら、私に問いかけた。

「うん、そのつもり」

私は力強く頷く。

「危険じゃないですか?

警察や捜索隊に任せたほうが……」


「そうだとは思うけど……

いてもたってもいられないの。

瀧君が困っているなら、私は、絶対に瀧君を助けたい」


そうだ。

私はあの時、瀧君に救われた。

今度は、私の番だ。


――――ん?あの時?

どの時のことを言ってるの?私。


「僕としては、あくまで三葉さんには、岐阜のホテルで捜索隊の捜索を待ってほしいんですけど……」

「ごめんね、迷惑かけて。

会社さんの方には、私が勝手に、ホテルから出ていった、って言ってくれていいから」


「いや、そんな、会社とかはいいんですけど……

…………って、まさか、一人で行くつもりですか!?」


滝くんが慌てたように私の方を向く。

危ないから前を見て欲しい。


「そうだけど……」

「駄目ですよ!そんなの!!」

クワッと滝くんが目を見開いて叫ぶ。


「だって……警察の人に『付いてきて』なんて言ったら、絶対に反対されるし……」

「僕がいるじゃないですか!!」

滝くんが叫ぶ。


「そんな!滝くんに迷惑はかけられないよ!」

「駄目です!絶対についていきますからね!!」


ハンドルをギュッと音をだすぐらいに握りしめながら、滝くんが吠えた。

決意は固そうに見える。

「……そこまで言うなら、甘えさせてもらうけど…………

……どうして、そこまで協力してくれるの?」


「ど、どうしてって、そりゃ……」

滝くんが口ごもる。

そんなに変なことを聞いたかな?



「えっと……その……

あ!あれですよ!

瀧先輩にはお世話になってますし!

えっと、それに…………」

「それに?」

「それに……三葉さんの、悲しむ顔は、見たくないですから……」

滝くんがポツリと言った。


……ああ。

なんていい人なんだろう。

私は目頭が熱くなるのを感じた。

「そっか……ありがとう、滝君。

本当にいい人だね」

私は涙ぐみながら言う。

「え!?

えっと……はい、まぁ……」


「瀧君が見つかったらぜひ、お礼をさせて!

なにかしてほしいことがあったら言って!

私に出来ることなら、何でもするから!!」


私の言葉に滝くんは真っ赤になって、あうあうと口ごもったあと、

「いや……お礼なんて……大丈夫ですよ……」

と小さく言った。


本当に、無欲で、献身的な人なんだ。

こんなに素晴らしい人が手伝ってくれるなんて、私はなんて幸せものなのだろう。


瀧君……絶対に見つけるからね!!

私は改めて、前を向いて気合を入れた。


――ところで、滝くん。

そろそろ、前見よっか?









――翌朝。

私たちは岐阜のビジネスホテルを早々に後にし、


(部屋は私が二部屋とった。

滝くんは「ぼ、僕は、一部屋でも別に……」と言っていたが、

そんな失礼なことはできないと断った。

部屋代ぐらいは私が出さないと、申し訳なさすぎて死んでしまう)、


夜明けとほぼ同時に、

瀧君が入ったとされる山のふもとにたどり着いた。

服装は登山用のものに着替えている。


「この山に、瀧君が……」

私は目の前に広がる山道を睨む。


平凡な山道だ。

進んでみないとわからないけれど、特に歩きにくいということもなさそうで、

遭難するような山には見えなかった。


「会社も政府から、『特に危険な山ではなく、平凡な山道を登るだけ』と聞いてたんですけどね……」

滝くんが山の地図を広げながら言う。

瀧君と課長さんが進んだであろうルートは、昨晩のうちに、マーカーで線を引いてあった。


”赤い川”を調査するように言われた会社だが、

その位置は不確定で、はっきりしないらしい。

だから、あくまで普通の山道を道なりに進み、そこで赤い川が見つかれば、詳しく捜査する、という取り決めだったようだ。


「僕たちの課長はいい加減な人ですから、

多分この、一番険しいけど、一番短いルートを行って帰ってきて終わろうとしたはずです。

本当なら、この3本の道を2日かけて調査するはずなんですけど、

あの人、『テキトーにさっさと終わらせて、翌日は酒とネーチャンのお店で、会社と政府の金で豪遊だ!』って他の課長に言ってたみたいなので……」


いつの日か瀧君が「ウチの課長、けっこういい歳なのに、未だに課長なんだよな」なんて言ってたのを思い出す。

ただ、今回に限って言えば、ルートにあたりがつくのはありがたかった。


「そっか……じゃあ、まずは、その道を登ってみよっか」

「この山では、一番険しいルートみたいですよ?大丈夫ですか?」

「だって、その道が一番、瀧君が歩いた可能性が高いんだよね?」


私がそう言うと、滝くんが諦めたようにうなずいた。

「そうですね……じゃあ、この道で行きましょう」

「ごめんね、迷惑かけて」

「いえ、全然!大丈夫です!!」


私たちは山道を進み始めた。







岩場と斜面



――もう、6時間は歩いただろうか。

日もすっかり登り切り、お昼と言って良い時間だ。


最初の方はまだ薄暗くて進みが遅かったのと、

瀧君の手がかりがないかと、道中声を上げたり、慎重に進んだ結果、

普通よりもさらに登るのに手間取っていた。


加えて、どうしても男性である滝くんに比べて、私の進むスピードは遅い。

こんな時になんだけど、歳をとったと感じてしまう。


「はぁ、はぁ、はぁ……」

息を切らしながら、私は前を登る滝くんの背中を見る。


そこには、登山用の道具がたくさん入ったリュックと、黄色い派手なガラの浮き輪が目に入った。

私が気を動転していた時に買ったもので、あれを見るたびに恥ずかしい気持ちになるけれども、


その度に私は、

「瀧君が川を調査する以上、彼を助けるのに必要になるかもしれない」と、

自分を慰めていた。


「――そろそろ、お昼にしますか」

足を止めた滝くんが振り返って言った。


「ううん、進もう。

まずは頂上までは登りきろうよ。

このルートに、瀧君の手がかりがあるかどうか、確認しよう」

「三葉さん、そう言ってさっきも、殆ど休憩を取らなかったじゃないですか。

このままじゃ、倒れちゃいますよ」

「私は良いの。それより、瀧君を助けないと!」

私の言葉に、滝くんは困った顔を浮かべた。


「その、すいません……

僕自身、ちょっと限界でして……

あそこの岩場で、ちょっと休んでもいいですか?」


その言葉に、私はハッとする。

あまりにも、滝くんのことを考えなさすぎだ。


「そうだよね……ごめん。

うん、休もう!」

私の言葉に、滝くんはニッコリして頷き、

後少しだけ登って、向かい合う岩に腰掛けた。


座りやすい高さの、手頃な岩だ。

多分、多くの人がここに腰掛けて休憩することだろう。


「フー……」

岩に腰掛けた瞬間、体中がドッと重くなったような感じがした。

想像以上に、私の体は限界が近かったらしい。


慌てて、リュックの中から携帯食を取り出して食べ始める。

こんなところで倒れたら、洒落にならない。


「ふぅ……」

少し落ち着いて、滝くんの方を見ると、ゆっくりとおにぎりを食べていた。

その姿は、けっこう余裕がありそうで、

多分あの「限界」という言葉は、私を気遣った嘘だったんだと察する。


私は急に、何も見えてない自分が恥ずかしくなった。


「ごめんね、滝くん。ありが――」

私のお礼は、途中でピタリと止まってしまった。

滝くんの足元にある、水筒の蓋らしきものに、目を奪われたからだ。


岩の陰にある”それ”は、落ち葉の覆われることなく、

最近そこに落ちたもののように、私には感じられた。


「滝くん!その蓋……!」

私の視線と言葉に、滝くんも慌てて足元の水筒の蓋を手に取る。


「三葉さん、見覚えはありますか……?」


瀧君のものかもしれない――滝くんもそう思ったのか、緊張した声で私に尋ねる。

私は、目の前に掲げられた蓋(色は黒だ)をしげしげと眺め、同時に、瀧君が持っていった水筒を思い出す。


「…………ううん、違うね。

瀧くんが持っていったのは赤い水筒だった」


「そうですか……」

滝くんが残念そうに蓋を引っ込めた。



「ちょっと、見ていいかな?」

私は滝くんから蓋を受け取り、ぐるぐると回しながら観察する。

この蓋は瀧君のものではない――それは分かっていながら、

私はどうしても、この水筒の蓋が気になってしょうがなかった。



「……まだ、濡れてる?」

よく蓋の内側を見てみると、ほんの少しだが、水滴が付着していた。

蓋は内側が下になるように落ちていたから、水滴が残っていても不思議ではないけど、

こんな小さな水滴が、何日も蒸発せずに残るものだろうか?

私は思い切って、水滴を指につけ、舐めてみた。

「これは……お酒?」


私はお酒が好きではない。

でも、幼少から田舎町の風習で、

アルコールを定期的に口に入れていたから、舌の感覚には自信があった。


「ホントですか!?」

滝くんが慌てて立ち上がり、近づく。

私が蓋を渡すと、彼はくんくんと蓋の匂いをかぐ。


あ、そうか……なにも舐める必要はなかったのか……。


「ホントだ……これは、もしかすると……」

滝くんが何かを考え込む。


「何か心あたりがあるの?」

私は緊張した声で尋ねる。

心臓が激しく動き出す感じがした。


「えっと……確証はないんですが……

その……僕たちの課長が、お酒が大好きで……

もしかしたらですけど、こういう、会社の目の届かないところだと、

お酒の入った水筒を持ち込んでても、おかしくないかなって…………」


それを聞いた私は、すぐさま立ち上がり、辺りをキョロキョロと見渡す。

前後には山道、左右には藪が広がっていて、視界は決して良くはない。


「たきくーん!!!!」

大声で私は呼びかける。

「かちょおー!!!」

滝くんも声を上げる。




「「………………」」

返事はない。

木が風で揺れる音と、鳥の鳴き声だけが聞こえるばかりだった。


「……ちょっと、周りを調べてみよう。私はこっちを見るから、滝くんはそっちをお願い」

私たちは手分けして、左右の藪を調べることにした。

私は右側の藪に近づき、その先を眺めてみる。


見えたものは、藪や木が立ち並ぶ、まさに森林と言って良い光景だった。

川も見当たらないし……この藪が立ち並ぶ中を、普通の人間が歩いて進むのは、かなり難しそうだ。


「三葉さん!ちょっと……!!」

後ろから滝くんの声がして、私は急いで振り返る。

見れば、滝くんは藪の下を覗き込むようにして立っていた。


「何か見つかった!?」

私は急いで滝くんの隣に向かう。


「三葉さん、気をつけてください!!」

滝くんが”バッ”と手で私を制した。

何事かと思ったが、藪の向こうを見て納得した。


崖、とまではいかないが、かなり急な坂道が、そこには広がっていた。

足を踏み外したら、転げ落ちてしまいそうなぐらい、急な角度だ。


――まさか、瀧君はここから転げ落ちた?

不吉な考えが、私の頭をよぎる。


「三葉さん、あそこを見てください!」

滝くんに言われ、彼が指差す先を見てみると、斜面を下りきった先(100メートル以上は離れているだろうか?)の草の上に、小さな黒い塊が見えた。

「あれ……カバンじゃないですか?」

滝くんの言葉にハッとする。

たしかに、よく目を凝らしてみるとカバンのように見える。


私はすぐさま、リュックを置いた岩場に駆け戻り、ロープを取り出して、リュックを背負う。

そして、再び滝くんの隣に移動して、手頃な木にロープを括り付け始めた。


「三葉さん、何してるんですか!?」

「あそこに降りるの。ロープを伝えば行けると思う」


私は太い木に、ロープをこれでもかという力で、ギュッと縛る。

「危険ですよ!?」

「大丈夫!」


理由になっていない。

でも、こんな状況で、ちんたら回り道をするつもりは、私には一切なかった。


「ああもう……わかりましたよ!

じゃあせめて、僕が先に行きます!

足を滑らせても、僕が下にいればなんとかなるかもしれません!

あと、命綱もちゃんとつなぎましょう!」


滝くんが自分のカバンからもロープを取り出す。


「ありがとう!」


私たちは急いでロープを木にくくり、下に降り始めた……。


下へ



たっぷり10分かけて、私たちは下にたどりつく。


降りている途中で、下にある黒い点がはっきり見えるに連れて、嫌な予感が私の心を支配していた。


着地した瞬間、私は震える手で命綱をナイフで切り、

もんどりを打つように黒い鞄に駆け寄る。


嘘……嘘だよね?

そんなこと……ないよね……??


鞄の前に、滑り込むように私はかけこむ。

そこにあったのは……


「瀧君……」


――間違いなく、昨日出張に出かける時に、彼が背負っていた登山用の鞄だった。


「そんな……瀧君!瀧君!」


私は立ち上がり、ブンブンと音がするほどの勢いで、辺りを見渡す。

周囲には森が広がっていて、遠くまで見渡すことはできなかった。


「み、三葉さん……これ…………」


後ろから追いついてきた滝くんが、震える声で何かを指さしていた。

その指の先を見てみると、大きな、獣が残したと思われる足跡が、森に向かって続いていた。


「た、瀧センパイ…………まさか……く、く、く、クマに………………」


私は、熊が瀧君を襲う光景を頭に浮かべ――


「キャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


――そのまま、気絶した――――――。





続く


続きは、書け次第アップします。





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